Chapter 4 子宮頚がん-扁平上皮がんの診断(1)-
- Section1 がんがあるかどうか調べる検査
- 検査の種類
- 検査の結果
- Section2 がんがあれば、どの程度進行しているかを調べる検査
- Section3 将来がんになる可能性があるかどうかを調べる検査
■検査の種類
① 細胞診(検査)
② 膣拡大鏡診(検査)(コルポスコープ診ともいいます)
③ 組織診(検査)
があります。
①で要注意以上がでると、②→③と検査がすすむのが普通です。
■①細胞診(検査)
子宮の出口の所のがんの出来やすい所の細胞をとってきて顕微鏡の検査をするものです。
集団検診でもこうした方法で検査をします。
癌細胞かどうかは、①この核の部分が異常な状態になっていないかをみます。
また②細胞質も、癌や前癌状態になると正常な状態からはずれてきます。
■②膣拡大鏡診(検査) -コルポスコープ診ともいいます-
子宮の出口のがんの出来やすい部分をレンズのついた虫めがねのような検査器械で検査するもの。
がんや前がん状態の時は出口の所に独特の要注意の様子がうつってきます。
■③組織診(検査)
膣拡大鏡診で要注意と思われる所があった場合、その部を削りとって、さらに詳しく顕微鏡の検査を行います。この検査の診断は専門の病理医が行います。
これはいつも患者さんを診察している臨床医ではなく、別の専門医が冷静、厳密に判断するということで、がんの診断がより公正に判定されるということになります。
・組織診の後は少し出血する時があります。
・出血が多い時は医師から注意があります。
・あまり出血が多い時は出血部位を縫合するなどの止血処置をうける必要がある時もあります。その際も痛い事は殆どありません。
■①細胞診(検査)の結果
クラス分類といって大きく分けてⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴの5段階で結果が出ます。
このⅠ~Ⅴがさらにいくつか細分されて結果が出るのですが、あまり細かい判定ですと、結果を聞いても、もう1つピンとこない時があります。
☆少し図式的に説明しますと次のようになります。
≪クラス分類≫
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | ||
Ⅱ | Ⅱb(ⅡR) | Ⅲa | Ⅲb | |||
異常なし | 気をつけて | がん | ||||
全く異常がありません | 基本的に異常はないのですが、炎症があったりホルモンバランスのくずれがあると少し活動力のある細胞が出ることがあります。多くは念のため6ヶ月後の検診をすすめられます。 | Ⅱb(ⅡRともいいます) Ⅱの中でもやや異常細胞に似ているものをⅡbとする事があります。 炎症などが原因の事が殆どで3-6ヶ月後に再検査すると異常が消えている事がよくあります。ただたまにクラスⅢの細胞が紛れこんでいる時もあるので再検査をすすめられる事があります。 | 現在がんが疑われる状態ではありませんが、少し活動力のある細胞が出ている状態です。医師の指示に従い定期的な検診が必要です。しかし、時としてⅢbの状態が紛れ込んでいる時もあるため、時々精密検査をすすめられる時があります。 | がんではないものの将来がんになる可能性もある。現在のところ、約20%の方が、がんに進行する可能性があると考えられています。この中によく調べると初期のがんが紛れ込んでいる時もあり、この時点では精密検査をうけた方が良いと考えられます。 | 初期のがんが疑われる | 進行したがんが疑われる |
顕微鏡で見える細胞の形を少し誇張して描くと下のようになります。
☆クラス分類上の注意
クラスⅢb、Ⅳといった時は微妙な判断になる時があります。
クラスⅢbでまだがんではないと判定されても精密検査で初期のがんがみつかる時もあります。逆にクラスⅣと言われてもがんになっていない時もあります。
このためクラスⅢ以上の時は、他の検査 膣拡大鏡診や組織診の検査で、いろいろな角度から判断をうけるのが普通です。
今までクラスⅠと言われていた人がクラスⅡと言われると驚かされる事がよくあります。
しかしクラスⅡと言われても、これはあくまで基本は良性です。炎症とかホルモンバランスのくずれがあったため、たまたまⅠ→Ⅱになっただけでの事が殆どですからあまり心配しないで下さい。Ⅰ→Ⅱ→Ⅲと進む最初のステップにはなる事は殆どありません。
Ⅰ→Ⅱとなって次はまたⅠとなる事の方が多いでしょう。不安な点があれば主治医とよくお話をする事が大切です。
しかしクラスⅢa、Ⅲbと言われたら、これは逆にきちんと通院しましょう。意外と軽く受けとめて通院しない人がいます。この段階ではパピローマ ウィルスが何らかの活動をしている可能性もあり、きちんと経過を観察しましょう。
最近Ⅲb→Ⅳに移行するスピードが早くなった印象があります。Ⅲbと言われた方で何らかの形でウィルスの活動が活発になる要素が出てきている可能性があります。
例えばクラミジアなど一緒に他の感染症がある時など
■さて細胞診の分類に新しい基準が出来ました。これをベセスダ法(システム)といいます。
これらの結果が出た時は場合によりHPV検査をすすめられる事があります。検査をうける意義、メリット等については医師と相談しましょう。
なお、新しい分類システムですが、今までの分類から急にかわると検診をうけていた方が混乱する事があります。
このためしばらくは両方の分類を合わせてお伝えする場合や、以前の通りでお伝えする場合もあります。
結果 | NILM | ASC-US (アスカス) | ASC-H (アスカス-ハイ) | LSIL | HSIL | SCC |
日本語の意味 | 陰性 | 意義不明な異型扁平上皮細胞 | HSILを除外できない異型扁平上皮細胞 | 軽度扁平上皮内病変 | 高度扁平上皮内病変 | 扁平上皮癌 |
推定される顕微鏡レベルの異常 | 腫瘍性の異常はない。炎症のある時がある。 | 軽い扁平上皮内病変の疑い | 高度の扁平上皮病変の疑い | HPV感染軽度異形成 | 中等度異形成~微少浸潤癌の疑い | 扁平上皮癌 |
従来のクラス分類 | Ⅰ、Ⅱ | Ⅱ~Ⅲa | Ⅲa~Ⅲb | Ⅲa | Ⅲa、Ⅲb、Ⅳ、Ⅴ | Ⅴ |
■②膣拡大鏡診(検査)の結果
子宮の出口のいろいろな変化、異常は、医師から分かり易く説明があるのが普通です。
なお膣拡大鏡診による検診は経験豊かな医師の診察が必要です。膣拡大鏡診だけで病名が指定出来る時もあります。また次の組織診(検査)の時に正確に異常な所をみつけて切り取らなければいけません。
■③組織診(検査)の結果
膣拡大鏡で観察しながら異常のある部分を検査するものです。
子宮の出口の組織を切り取った検査。次の3つに分けられます。
a)異常なし
b)異形成上皮
異形成上皮はがんではありませんが、異常な成長性をもつと考えられる細胞があつまって子宮の出口の組織を形成しているもので、大きく3つに分けられます
1、軽度異形成上皮
2、中等度異形成上皮
3、高度異形成上皮
c)がん
・初期のがん
・進行したがん
これを先の細胞診の検査結果と比べてみましょう。だいたい下の図のような関係になります。
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | ||
細胞診 | 異常なし | Ⅲa | Ⅲb | 初期のがん | 進行がん | |
気をつけて | ||||||
組織診 | 異常なし | 異形成上皮 | が ん | |||
高度/中等度 | 高度 | 初期がん | 進行がん |
● この組織分類に最近新しい分類が加わりました。CIN分類です。
日本で使用されている分類とCIN分類を比較してみました。
下の図の通りです。
子宮頸がん 取扱い規約分類 | 正常 | 異形成 dysplasia | 上皮内癌 (CIS) | ||
軽度 (DL) | 中等度 (DM) | 高度 (DH) | |||
CIN分類 | 正常 | 1 | 2 | 3 | |
CIN(上皮内腫瘍) |
● CINというのはCervical Intraepithelial Neoplasiaの略です。
従来から日本で使用され、一般的になっている異形成上皮(今癌ではないが、軽度~高度に従って将来癌になる可能性に差のある上皮異常)と比べて
同じなのは、
・CIN-1は軽度異形成上皮
・CIN-2は中等度異形成上皮
違うのはCIN-3が高度異形成上皮と上皮内癌を合わせた状態をいいます。
これには高度異形成上皮と上皮内癌が生物学的には非常に似たものであるという認識があるのかも知れません。
■組織診上の注意
組織診でがんと診断された場合、初期だからといって油断したり、進行がんの範囲に入ったからといって過度に悲観してはいけません。
その時点で、症状に合わせた治療方法をきちんとしかも早目にうける事が大切です。
最近の医学の進歩は進行がんと判定された方でも高い治療率が得られています。
■検査の種類
①内診
②MRI検査(magnetic resonance imaging)
③CT検査(computed tomography)
④膀胱鏡検査
⑤血液検査
⑥PET(ペット)検査
⑦シンチグラム検査 などがあります。
■検査の結果について
組織診(検査)とあわせがんが、どの程度進行したかを調べます。
これは0期から4期まで5段階に分かれます。
Ⅰ期…がんが子宮の出口の所(膣部といいます)にとどまっているものをいいます。
Ⅰ期はⅠa期とⅠb期に分かれます。Ⅰa期はさらにⅠa1期とⅠa2期に分かれます。(但し数少ない腺癌はⅠa期とⅠb期のみです)
少し専門的になりますが、これを詳しくお話すると下の図のようになります。
Ⅰa1、Ⅰa2、Ⅰb期に分ける理由は、リンパ腺や血管の中に癌細胞が入り込む確率などが違うためです。
この事は手術の方法など治療と関係します。また追加の治療(例えば放射線療法や抗癌剤治療)に関係することがあります。
治療法の選択についてはあとのページをご覧下さい。
Ⅱ期…がんが子宮膣部をこえて、膣の方に進んだがまだ1/3に達していないもの、あるいは骨盤の方に進んだがまだ1/3に達していないものをいいます。Ⅱ期はⅡa期とⅡb期に分かれます。
Ⅲ期…がんが骨盤の方にすすんで1/3 をこえたものをいいます。
Ⅲ期はⅢa 期とⅢb期に分かれます。
Ⅳ期…がんが女性の臓器のある所(子宮や卵管、卵巣…これを小骨盤といいます。)をこえて進行したか、あるいは子宮の前後にある膀胱や直腸に進んだものをいいます。Ⅳ期はⅣ期とⅣb期に分かれます。
がんが進行していると死亡率が高くなりますが、進行しているからと言って絶望という訳ではありません。例えばⅣ期の方でも5%の方はリンパ腺の転移がないという研究が
あります。最近のがん治療は高い治療効果をあげています。自分で勝手に判断せずに、専門医とよくお話をしましょう。
■リンパ腺転移の可能性
0 期 転移はないのが普通です。
Ⅰ期 Ⅰa1 0~1%位
Ⅰa2 5%
Ⅰb 15~20%
Ⅱ期 Ⅱa 35%
Ⅱb 50%
その後進行度が進むにつれてリンパ腺転移の確率が高くなりますが1 番進んだⅣ期でも100%ではありません。
■将来がんになる可能性があるかどうかを調べる検査
HPV(ヒトパピローマウィルス)感染が子宮がんの原因であるという事が分かってきました。このHPV を調べる事で将来がんになる可能性があるかどうか分かるようになってきました。